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浦和地方裁判所 平成3年(ワ)651号 判決 1992年8月10日

原告

井原亨

ほか二名

被告

小野寺伸行

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告井原亨に対し九一七三万七七〇七円、原告井原義美に対し二七〇万円、原告井原淑子に対し二七〇万円及び右各金員に対する平成二年七月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告井原亨(以下「原告亨」という。)に対し一億一六四四万五七四二円、原告井原義美(以下「原告義美」という。)に対し五五〇万円、原告井原淑子(以下「原告淑子」という。)五五〇万円及び右各金員に対する平成二年七月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次のような交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(1) 日時 平成二年七月二七日午後九時一〇分ころ

(2) 場所 埼玉県上尾市中分一丁目二〇番一二号先路上

(3) 態様 被告小野寺伸行(以下「被告伸行」という。)は制限速度四〇キロメートルの本件事故現場付近の道路を右制限速度を大きく上回る時速一〇〇キロメートルで自動二輪車(一大宮―さ九五三六、以下「加害車」という。)を運転して走行中、運転操作を誤つて加害車を転倒させ、その勢いでふつ飛んだ加害車が付近を歩行中の原告亨に衝突してはね飛ばし、その結果、原告亨は後記のような傷害を負つた。

2  被告らの責任

(1) 被告伸行は本件事故当時自己のために加害車を運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条に基づき、原告亨、その両親である原告義美及び原告淑子について生じた損害を賠償すべきである。

(2) 被告伸行は本件事故当時一六歳の未成年者であり、被告小野寺皖哉(以下「被告皖哉」という。)及び被告小野寺重子(以下「被告重子」という。)はその両親であつて、被告伸行について養育監護の義務を負つていた。被告伸行は本件事故前にも自動二輪車を運転して何度も事故を起こしており、また、被告伸行は運転免許を取得して間がなく、未成年者の自動車運転による事故が極めて多いことに鑑み、被告皖哉及び被告重子は、被告伸行が加害車を運転するについては、交通法規を遵守し、他人に危害を加えることがないよう一層厳重に監督すべき義務を負つていたというべきである。ところが、両被告は、これを怠り、被告伸行による加害車の無謀運転を放置していたのであり、これが本件事故の一因となつているのであるから、両被告は民法第七〇九条、第七二五条に基づき、原告らについて生じた損害を賠償すべきである。

3  損害

原告亨は本件事故により脳挫傷、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳内出血等の傷害を負い、事故後、現在もなお引き続き医療法人社団愛友会・上尾中央総合病院に入院し治療中であるが、その症状は平成四年五月一日の時点で固定した。この時点では、原告亨は言語機能を完全に失つて発声もできず、意識障害をもつたまま寝たきりの状態にある。神経系統の機能及び精神にも著しい障害があり、常に介護を必要としている。これらの後遺障害の程度は自賠法施行令第二条関係別表の第一級に該当する。

(原告亨について生じた損害)

(一) 治療費関係

(1) 治療費 四五六万六〇六五円

上尾中央総合病院に入院した平成二年七月二七日(本件事故の日)から前記症状固定の日の前日である平成四年四月末日までに要した治療費は四五六万六〇六五円である。

(2) 入院雑費 七七万二八〇〇円

前記期間中の入院雑費は、一日一二〇〇円として、六四四日分で計七七万二八〇〇円である。

(3) 近親者看護交通費 三五万六九九九円

原告亨を看護するため原告義美と原告淑子は、毎日一回、時には二回上尾中央総合病院に通つている。その際の交通手段としてバス又は自家用自動車を利用しているところ、その平成二年七月二七日から同四年四月末日までの間のバス料金、ガソリン代及び駐車場料金の合計は三五万六九九九円である。

(4) 医師等への謝礼 三五万九六一八円

集中治療室や脳外科など、原告亨が治療を受けている部門に勤務する医師、看護婦等への謝礼として、平成四年四月末日までに計三五万九六一八円の支弁をした。

(二) 逸失利益 一億〇二五九万〇二六〇円

原告亨は、平成二年三月高等学校を卒業し、本件事故当時は、大学進学を目指して予備校に通う毎日を送つていた。したがつて、本件事故に遭遇しなければ、原告亨は平成三年四月一九歳で大学に入学し、平成七年三月大学を卒業して、就労可能となつたはずである。そこで、年間収入を賃金センサス平成元年第一巻第一表のうち新大卒男子労働者の年間平均賃金五八〇万八三〇〇円、就労可能期間を二三歳から六七歳までの四四年間、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとして、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して(係数一七・六六二七)、原告亨が右就労可能期間中に得るであろう収入の本件事故当時における現在価額を算出すると、次のとおり一億〇二五九万〇二六〇円である。

5,808,300円×100/100×17.6627=102,590,260円

(三) 慰謝料 二七〇〇万円

原告亨は本件事故後本件口頭弁論終結時の平成四年六月に至つても病院のベツトで寝たきりの生活を送つている。現在でこそ、最悪の事態は脱したものの、事故後数か月はいつ生命を失うかも知れない極めて危険な状態であつた。長時間に及ぶ何度かの手術を受け、さまざまな治療によつてようやく生命をとりとめたのである。しかし、その後も、言語機能を完全に喪失し、意識障害をもつたまま入院治療を続けなければならない状態にある。さらに、原告亨は、前記後遺障害のため、将来への希望を失い、残された人生を寝たきりのまま送らなければならないのである。これは大学進学を控えた前途有望な少年にとつて余りにも残酷な事態である。以上の事情に鑑みると、原告亨が被つた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は、傷害を受けたこととその治療に伴う分として三〇〇万円、後遺障害に伴う分として二四〇〇万円、計二七〇〇万円とするのが相当である。

(四) 損害の填補 二六二〇万円

原告亨は自賠法に基づく保険金として計二六二〇万円の給付を受けた。

(五) 弁護士費用 七〇〇万円

以上のような原告亨が被つた損害の程度に照らすと、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は七〇〇万とするのが相当である。

(原告義美及び原告淑子について生じた損害)

(一) 慰謝料 各五〇〇万円

原告義美及び原告淑子は、原告亨が誕生した日から今日まで約二〇年間にわたり原告亨をいつくしみ育ててきたものである。原告義美・淑子夫婦にはほかにもう一人子がいるが、少年時代の事故で足が不自由なせいもあり、夫婦は原告亨に格別の期待を寄せていた。その原告亨が入院治療を余儀なくされてから、夫婦は日々悲しみに耐え、交替で病院に通い、介護に当つている。本件事故は夫婦の幸福までも奪つたものであり、最愛の我が子の将来を奪われた両親の悲しみは筆舌に尽しがたいものがある。そして、夫婦が今後とも原告亨の介護を続けていかなければならないことを考えると、その精神的苦痛に対する慰謝料は原告義美及び原告淑子につきそれぞれ五〇〇万円とするのが相当である。

(二) 弁護士費用 各五〇万円

右のような原告義美及び原告淑子が被つた精神的損害の程度に照らすと、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は右原告両名につきそれぞれ五〇万円とするのが相当である。

よつて、原告らは被告らに対し、各自、原告亨に対して以上の損害合計一億一六四四万五七四二円、原告義美に対して五五〇万円、原告淑子に対して五五〇万円及び右各金員に対する本件事故の日である平成二年七月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告ら主張の日時ころ、被告伸行が加害車を運転して、本件事故現場を時速九〇ないし一〇〇キロメートルで走行したことは認めるが、加害車が原告亨に衝突してはね飛ばしたことは否認する。

被告伸行は本件事故現場で原告亨の姿を見ておらず、原告亨が遭遇した事故については、被告伸行が運転していた加害車に衝突したこと以外の事故原因が存在する可能性がある。というのは、事故当夜、近くの住民が、本件事故現場付近で数人の酔つ払い風の男が騒いでおり、間もなく自動車で立ち去つたのを目撃しており、同じく被告伸行の友人も数人の男が「やばい。俺じやねえぞ」と叫びながら自動車に乗り込み、フルスピードで走り去るのを見ている。また、原告義美が、事故の知らせを聞いて現場にかけつけた際、付近で探し物をしている不審な人物を見かけているなどの事実があるからである。

2  同2の主張のうち、被告らに損害賠償義務があることは争う。

3  同3の各事実は不知。

第三証拠

本件訴訟記録中の「書証目録」及び「証人等目録」に記載のとおりである。

理由

一  成立に争いのない甲第三号証の一ないし一八、一九ないし四一、四三、四四、四六ないし五五、原告義美、同淑子、被告伸行の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は南方の埼玉県大宮市方面から北方の同県桶川市方面へ至る幅員九メートルの県道に沿つて東西両側に設けられている歩道の、西側の歩道上である。本件事故現場付近においては、平坦なアスフアルト舗装の右県道が直線に走り、道路上の前方の見通しは良好であり、道路には制限速度時速約四〇キロメートルの交通規制がされている。

2  被告伸行は平成二年七月二七日午後九時ころ、ほか二人の仲間と自動二輪車を乗り回しドライブを楽しんでいるうち、本件事故現場付近で、先行する仲間に追いつこうとして、加害車の速度を時速五、六〇キロメートルから一〇〇キロメートルぐらいに急激に加速した瞬間、ハンドル操作の自由を奪われ、そのため身体がバランスを失つて路上に転落し、加害車はそのまま暴走した。

3  原告亨は原告義美・同淑子夫婦の次男であり、平成二年三月高等学校を卒業し、本件事故当時は、日中予備校に通い、大学進学を目指して勉学中であつたところ、本件事故当日の午後九時ころ、学習の疲れをいやすため飼犬を連れて自宅付近の散歩に出た。

4  加害車の前記暴走事故の直後、前記歩道上には原告亨が頭部を桶川方面(北)に向け、血を流して仰向けに倒れているのが発見された。近くには破損した加害車の部品の一部が飛び散つており、加害社はそこから北西方向の畑の中に倒れていた。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告亨は本件事故現場の県道に設けられた歩道を散歩中、暴走してきた加害車に衝突されたと推認するに十分であり、ほかにこの認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告伸行、同重子の各本人尋問の結果によれば、加害車は被告伸行の所有であり、被告伸行は本件事故当時、自己のためにこれを運行の用に供していたことが認められる。したがつて、被告伸行は原告亨、その両親である原告義美及び原告淑子に対し本件事故によつて生じた損害を賠償すべきである。

前示甲第三号証の一〇ないし一四、二一ないし二四、四二、五一ないし五五、被告伸行、同重子の各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。すなわち、(1)被告伸行は、被告皖哉・同重子夫婦の次男であり、平成元年三月中学校を卒業したあと、住居地近くの工場に勤めたが、一年ほどで辞め、本件事故当時は、住居地近くの運送センターで配送品の仕分けのアルバイトをしていた。(2)被告伸行は昭和四八年九月一一日生まれで、本件事故当時は一六歳であり、自動二輪車の運転免許を取得したのは本件事故の三か月ほど前の平成二年四月である。しかし、被告伸行は、それ以前に既に友人から中古の自動二輪車を買い受けて所有しており、夜間、これを運転していた。(3) 運転免許取得後、本件事故までの間に、被告伸行は、乗車方法違反、横断歩行妨害、通行禁止区間通行など三回にわたる交通違反を犯しており、運転免許取得前の平成二年二月には原動機付自転車に乗車中、道路脇の壁に衝突するという物損事故を起こしたが、当局への届出をしなかつた。(4)加害車は本件事故の一か月ほど前の平成二年六月二九日、被告伸行が五三万円ほどで購入した新車であり、これを買い入れるについては、被告皖哉・同重子はその代金の一部一五万円ほどを拠出している(ただし、この一五万円は後に被告伸行から返還された。)。(5)被告伸行には日常生活上自動二輪車を必要とする事情はなく、加害車はもつぱら運転、走行を楽しむために購入したものであり、被告伸行は、仕事を終えて帰宅したあと、仲間と、決まつた場所に集まつて、付近の道路上で自動二輪車を乗り回すことが多かつた。本件事故も、ほか二人の仲間と前記県道上で加害車を乗り回しているうちに発生したものである。以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。右事実によれば、本件事故当時、被告皖哉・同重子は、一六歳の未成年者である被告伸行に対して親権者としての看護養育の義務を負つていたところ、被告伸行は自動二輪車の運転について非常な興味、関心を抱いている反面、交通安全、人名尊重等についての道徳観念は極めて希薄であり、右認定のような状態で被告伸行に自動二輪車の運転をさせていたのでは人身事故も起こしかねないことは予見するに難くないことであるから、被告皖哉・同重子としては、被告伸行による自動二輪車の運転については絶えず重大な関心を払い、運転の時間、場所及び方法等について具体的に厳重な指示を与え、これに従わないような場合には断固として運転を中止させるなど厳格な態度で臨むべきであつたというべきである。被告重子の本人尋問の結果によれば、被告皖哉・同重子は被告伸行に対し日頃運転について注意を与えていたことは認められるが、これが被告伸行に対して何の効果を及ぼしていなかつたことは右認定の事実に照らして明らかであり、被告皖哉・同重子が被告伸行に対して前述のような厳格な態度で臨んでいたならば本件のような事故の発生を見ないでも済んだものということができる。したがつて、被告皖哉・同重子は、被告伸行に対する親権者としての看護養育の義務を十分に尽さず、このことが本件事故の一因となつたということができるから、原告らに対し本件事故によつて生じた損害を賠償すべきである。

三  成立に争いのない甲第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる第四号証、原告義美・同淑子の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故のため原告亨は脳挫傷、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳内出血等の傷害を負い、本件事故の日から引き続き医療法人社団愛友会・上尾中央総合病院に入院し、治療を受けていること、入院後、頭蓋血腫除去手術を受けたが、脳幹を含むびまん性脳障害のため、平成四年五月一日現在においても、嚥下不能、言語による疎通不能、四肢麻痺によりベツドに寝たままの状態にあり、栄養の摂取は気管切開、経管栄養によつているため全面的な介助を必要とし、この状態は将来においても改善される見込みはないこと、この後遺障害は自賠法施行令第二条関係別表の第一級に該当することが認められる。

そこで、右事実を基にして、原告らについて生じた損害について検討する。

(原告亨について)

1  治療費関係

(一) 治療費 四五六万六〇六五円

原告義美の本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第五号証の一ないし二二によれば、平成四年四月末日までに要した原告亨についての治療費は四五六万六〇六五円であることが認められる。

(二) 入院雑費 七七万二八〇〇円

本件事故の日である平成二年二月二七日から同四年四月末日まで、六四四日分の入院雑費は一日一二〇〇円として計七七万二八〇〇円とするのが相当である。

(三) 近親者看護交通費 三五万六九九九円

原告義美の本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第六号証によれば、原告義美と原告淑子は毎日一回若しくは二回、原告亨の看護のため上尾中央総合病院を訪れており、その交通費として平成四年四月末日までに計三五万六九九九円を要したことが認められる。そして、これは本来的には原告亨が負担すべきものであるから、原告亨について生じた損害とするのが相当である。

(四) 医師等への謝礼 三五万九六一八円

原告義美の本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第七号証によれば、原告義美は平成四年四月末日までに、脳外科その他原告亨が治療を受けている部門に勤務する医師、看護婦等への謝礼として、平成四年四月末日までに計三五万九六一八円を支弁したことが認められ、原告亨の前記症状に照らすと、これは必要かつ止むを得ない支出と認めるのが相当である。そして、これが原告亨について生じた損害とするのが相当であることは前述したとおりである。

2  逸失利益 八〇三八万二二二五円

原告亨の前記症状の程度に照らすと、原告亨は生涯にわたりその労働能力の全てを失つたと認めるのが相当であるところ、原告義美、同淑子の各本人尋問の結果によれば、原告亨は、平成二年三月高等学校を卒業し、大学進学を希望して受験したが、失敗したため、本件事故当時は翌平成三年の受験を目指して、日中は予備校に通い、勉学に励んでいたことが認められ、これによれば、原告亨は平成三年四月にはいずれかの大学には進学でき、四年後の平成七年三月には卒業して社会人になると推認するのが相当である。そこで、年間収入賃金センサス平成元年第一巻第一表のうち新大卒男子労働者の年間平均賃金五八〇万八三〇〇円、就労可能期間を二三歳から六七歳までの四四年間、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとして、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して(「一八歳から六七歳まで四九年間の係数一八・一六八七」から「一八歳から二三歳まで五年間の係数四・三二九四」を差し引いた一三・八三九三)、原告亨が右就労可能期間中に得るであろう収入の本件事故当時における現在価額を算出すると、次のとおり八〇三八万二二二五円である。

5,808,300円×100/100×13.8392=80,382,225円

3 慰謝料 二七〇〇万円

本件事故の態様、原告亨が被つた傷害の部位・程度及びその治療経過等、本件審理に顕れた諸般の事情に照らすと、原告が被つた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は二七〇〇万円とするのが相当である。

以上の損害は合計一億一三四三万七七〇七円であるが、原告亨が自賠法に基づく保険金二六二〇万円の給付を受けたことは原告亨の自認するところであるから、これを差し引くと残額は八七二三万七七〇七円である。

4  弁護士費用 四五〇万円

右損害の残額、本件審理の経過その他審理に顕れた諸般の事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は本件事故当時の現在価額で四五〇万円とするのが相当である。

そこで、前記損害の残額にこれを加えると九一七三万七七〇七円であり、したがつて、被告らは原告亨に対し、各自右九一七三万七七〇七円及びこれに対する本件事故の日である平成二年七月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

(原告義美及び原告淑子について)

1  慰謝料 各二五〇万円

原告義美・同淑子の各本人尋問の結果によれば、原告義美・同淑子夫婦には原告亨のほかにもう一子(長男)があるが、長男は身体に障害を負つており、夫婦は原告亨の将来に大きな期待をかけていたが、本件事故のためにこれが無惨に打ち砕かれ、逆に、夫婦は将来にわたり大きな負担を負うことになつたことが認められ、そのほか、本件審理に顕れた諸般の事情に照らすと、原告義美と原告淑子が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰謝料はそれぞれ二五〇万円とするのが相当である。

2  弁護士費用 各二〇万円

右慰謝料の金額、本件審理の経過その他審理に顕れた諸般の事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は本件事故当時の現在価額でそれぞれ二〇万円とするのが相当である。

右1、2の損害は合計二七〇万円であり、したがつて、被告らは原告義美及び原告淑子に対しそれぞれ二七〇万円及び右各金員に対する本件事故の日である平成二年七月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

四  よつて、原告らの請求は右説示の限度でこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大塚一郎)

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